全盲伊志井さん堂々の24位
富士ニュース 平成8年12月2日




 三年前に視力を失った富士宮市山宮の写真家、伊志井桃雲さん(53)が1日、同市内で行われた富士宮朝霧高原マラソン大会の一般男子二十キロの部に初挑戦し、六十六人中24位という大健闘を見せた。マラソンは十月の全日本盲人マラソン小田原大会に続いて二度目だが、今回は相手が健常者ばかり。伴走の渡井新二郎さん(47)=同市万野原新田=とともに目標タイムでゴールに入った伊志井さんは「他の視覚障害者も後に続いてくれれば」とすがすがしい表情を浮かべた。


重度の視覚障害と戦いながら富士山の撮影をつづけてきた伊志井さんは平成5年5月、かすかに残っていた左目の視力もなくなり、失意の生活を送っていたが、周囲の激励や盲導犬との出会いを経て徐々にショックから立ち直り、今年5月、「気持ちが前向きになった。新たな人生の挑戦のために」と十月の盲人マラソン大会を目指して本格的な練習を始めた。当時六二キロあった体重が五〇キロまで減ったのは厳しい練習のおかげ。腕立て伏せ、盲導犬とのジョギング、そして十キロのランニングが毎日のスケジュール。法政大時代には箱根駅伝に出場した渡井さんは大学の後輩で、週一回は練習に付き添った。そして迎えた盲人マラソン大会。初出場で初優勝を果たし、今回の大会に挑んだ。
 一般男子二十キロの部は市内外から有力選手も出場する朝霧マラソンの花形。ピンク色のユニフォームで登場した伊志井さんは渡井さんと同じひもを握り、勢いよくスタートを切った。コースは折り返しまで上り坂が続き、後半はずっと下り坂。渡井さんが「ペース配分がうまくできた」とはなすとおり、後半調子をあげ、1時間27分13秒とほぼ目標通りのタイムでゴールに駆け込んだ。
 「渡井さんは心強いパートナー。でも暗闇の中を走るのは恐怖心でいっぱい」とレース前に話していた伊志井さんを何よりも勇気づけたのは沿道の声援。「桃雲さん、がんばれ」という声が何度も耳に届いた。
 同じレースの出場者から「頭が下がる思い」とたたえられた伊志井さん。表彰式では「優勝にも値する」と特別賞が贈られた。