盲人マラソンに挑戦 桃雲さん見事優勝
富士ニュース 平成8年11月17日




 このほど小田原で開かれた「全日本JBMAカップ小田原マラソン大会」に出場した富士宮の写真家・伊志井桃雲さんは、10キロの部(40歳以上)で見事に優勝。伴走した同市出身の市民ランナー・渡井新二郎さんとともに、「みなさんの応援のおかげ。期待に応えられて良かった」と喜びに浸っている。


 同大会は全日本盲人マラソン協会など主催で、アトランタのパラリンピックの金メダリストも出場するなど国内最大規模の大会で、年代や伴走車の有無、障害の度合いなどによって部門が設けられている。
 桃雲さんは、ハードな写真撮影で培った体力を生かし、活動に理解を示すテルモ富士宮工場を通じて知り合った渡井さん(現在は神奈川県のテルモ湘南センター勤務)の協力を得、約半年間の本格的なトレーニングを経て大会に挑戦した。
 出場したのは10キロの部の中で伴走が必要な40歳以上のクラス。50人余が出場し、桃雲さんらは練習タイムが優勝圏内に届いていたこともあって、序盤から一気にトップに躍り出て、終盤まで独走を続けた。
 ところが、オーバーペースがたたり、ゴールの競技場手前にある最後の難関”心臓破りの坂で”後続ランナーに差を詰められ、四百メートルのトラック内に入ったところで一旦はトップを奪われた。しかし、「ここで気を抜くとズルズル遅れてしまう」と気力で抜き返し、そのまま譲らず42分35秒の記録で優勝を手にした。
 桃雲さんは「渡井さんの励ましが大きな支えとなった。特に最後に抜かれたときには、疲れて手足が思うように動かなかったが、これまでの練習やみなさんの応援を無駄にしたくない、という一心でがんばった」、とデッドヒートを制した喜びを振り返った。
 伴走の渡井さんは、山間部にある小田原城周辺の起伏に富んだコースの、カーブや坂などの細かな道路状況や後続の様子を、励ましの言葉とともにひっきりなしに語り続けた。「桃雲さんの努力あってこそ。自分はアシストしただけだが、これまでの多くのレースとは一味違った感動があった」と話す。
 互いをたたえながら、苦労と喜びを分かち合い、「友情がさらに深まった」と声をそろえた。
 このあと二人は、来月の一日に富士宮市内で開かれる朝霧マラソン大会の20キロの部に挑戦する。桃雲さんは「今回は障害を持つ人同士のレースだったので負けられないという気持ちが強かったが、次回は健常者の大会、胸を借りるつもりでリラックスして臨める」と語る。
 こうしたマラソンへの挑戦は、がんばりを見てもらうことで多くの人に勇気を与えると同時に、障害者への理解を深めてもらおう−との願いが込められており、二人は、「地元での走りで目的が大きく前進するはず」と期待をふくらませている。