写真家・伊志井桃雲さんが盲人マラソンに挑戦
富士ニュース 平成8年10月13日(日曜日)




 視力障害と闘いながら写真活動を続ける富士宮市山宮の伊志井桃雲さん(53)は、「自分の可能性を追求したい」と、新たな挑戦として来月10日に小田原で開かれる「全日本JBMAカップ小田原マラソン大会」(全日本盲人マラソン協会など主催)に出場することになり、同市内の会社員渡井新二郎さん(47)の伴走を得てトレーニングを重ねている。


 桃雲さんは、厳しい富士山の自然に立ち向かうハードな撮影のため、日ごろからジョギングなどの体力づくりを欠かさず、以前からマラソンへの挑戦を考えていたという。写真活動の理解者でもあるテルモ富士宮工場を通じ、6年ほど前、陸上部の長距離ランナーとして活躍してきた渡井さんと知り合い、実現に向けての思いを温めてきた。
 ところが3年ほど前、目の病の悪化により片眼を失い、活動の休止を余儀なくされるアクシデントがあり一時は断念。しかし、失意の中で盲導犬アイリーンを得て、そのふれあいの中で心と体を癒し昨年から活動を再開。
 ブランクの間には写真活動の新たな構想を練り、第一歩として富士山以外に、ふもとの自然や風景にも目を向けた撮影を始め、この夏には作品集「ふじ乃里」も発表。それをステップに「同じ障害を持つ人たちを勇気づけたい」との願いを強め、マラソン挑戦への思いを再燃させた。
 アイリーンを伴ってのトレーニングを経て、今年の6月からは渡井さんとともに本格的な練習を開始。渡井さんは現在、神奈川県のテルモ湘南センターに単身赴任しているため、練習は週末に朝霧高原で続けている。「ほとんど光を失い、残された可能性を追求したい」と困難に挑む桃雲さんの熱意に応え、渡井さんも、指導のほか講習会で伴走の技術と知識を学ぶなど盲人マラソンに理解を深めてきた。「これまで続けてきたマラソンが人の役に立てることがうれしい」と語り、ともに走ることに新たな喜びを見出しながら練習に熱を込めている。
 伴走は、輪にした1メートルほどのロープを二人が手にして走行。腕の振りや歩幅などのペースを合わせるほか、コースの状態を伝える必要があるが、桃雲さんは「最初は足元が心配で思うように走れなかったが、現在は伴走用ロープも気にならない」と、息の合ったところをみせている。
 これまでの体力づくりの積み重ねもあったため、記録も練習のたびに伸び、10キロの部の優勝圏内となる40分前後に近づいている。先日の練習では、大会間近とあって、渡井さんが桃雲さんの名前に合わせ、そろいのピンクのユニーフォームをプレゼント。気持ちを高め「完走が第一だが、やるからには上位を狙いたい」と声を合わせた。
 同大会は、伴走者の助けにより可能になった視覚障害者のマラソン普及を図るとともに、健常者と障害者が一緒に走ることでノーマライゼーションの具現化にもつなげる。
 桃雲さんは「この挑戦で、障害者福祉に対する人々の関心を高めることに役立てるとともに、ハンディを持つ人に少しでも励みになれば…」と自らの目標に向かって意欲をふくらませている。